部屋の明かりは消えている。あたりは静か。なのに、あなたの脳はまさにこのタイミングで、終わっていないタスク、明日の予定、半年前の会話を総点検し始めます。
これは意志の弱さの問題ではありません。睡眠研究者はこれを入眠前の認知的覚醒(pre-sleep cognitive arousal)と呼んでいます。本来なら休息モードに入るべき脳の情報処理システムが、活動し続けている状態です。脳波モニタリングを使った睡眠ラボの研究では、認知的覚醒が高い人は低い人に比べて入眠までに37分長くかかることがわかりました。不眠症患者を対象にした研究では、反すうや心配そのものよりも、次々と浮かぶ思考が不眠の深刻さを予測する要因であることが明らかになっています。
なぜ就寝時が引き金になるのか
日中は、タスクや気が散るものがあなたの注意を奪い合っています。就寝時にはその競争がなくなります。すると、未解決の問題がどっと押し寄せてきます。不眠の神経認知モデルは、脳が情報処理モードから抜け出せなくなり、フィードバックループが生まれる仕組みを説明しています。思考が覚醒を生み、覚醒が目を覚まし続け、目が覚めていることがさらに思考を生む、という循環です。
効果のある2つのテクニック
目指すのは、頭を空っぽにすることではありません。脳に、負担の少ない別の処理対象を与えることです。
- 明日のやることリストを書く。 Baylor Universityの睡眠ラボの研究では、就寝前に5分間、翌日のタスクを書き出すだけで、完了した活動について日記を書くよりも9分早く眠りについたことがわかりました。リストが具体的であるほど、早く眠れました。書くことで、脳が抱え込もうとしているものを手放せるのです。
- 認知シャッフル(cognitive shuffle)を試す。 ランダムな単語を選び、それぞれの文字から連想するものを頭に思い浮かべます。たとえば「みかん」なら、水たまり、カバン、ん…のように。認知科学の研究では、連続多様イメージング(serial diverse imagining)と呼ばれるこのテクニックが入眠前の認知的覚醒を減らし、数を数えるよりも早く眠りにつけることがわかりました。ゆるくつながったイメージは、自然に眠りに落ちるときに脳が生み出す漂うような思考を模倣しています。 どちらのテクニックも同じ仕組みで働きます。脳がぐるぐる考え続けていることを、注意は引くけれど覚醒させないものに置き換えるのです。